台湾春摘み茶紀行2014
世界に名だたる烏龍茶の名産地・台湾。
最高の旬の一つ、春摘み茶シーズン真っ盛りの4月下旬おたより取材班は標高1,000m以上に広がる高山茶(こうざんちゃ)の茶園を中心に主要産地を訪問。
台湾茶の魅力と秘密を探ってきました。
台湾の高山茶(こうざんちゃ)とは?
主に台湾を南北に連なる3,000m級の中央山脈沿い、標高1,000m以上の産地で作られる烏龍茶のこと。南投県竹山鎮(杉林渓)、嘉義県阿里山郷、台中市和平区(梨山)などが主要産地。作付可能な土地が限られている上、高山特有の寒冷な気候により収穫量も少なく、希少な最高級品として知られています。
南国リゾートの爽やかな緑の烏龍茶
沖縄のさらに南の島国・台湾。近年、グルメや美術鑑賞、マッサージに温泉など、上質な大人のリゾート地として年間約130万人の人が訪問するなど、日本人にも大変親しまれています。
そしてお茶好きにとっては、魅力に満ちた烏龍茶産地が軒を連ねる、大切な土地の一つ。
お茶発祥の地、中国の一般的な烏龍茶の水色(すいしょく=カップに注いだときの色み)が茶色く焙煎を含めた風味と香気を味わうものであるのに対し、特に現代の台湾茶の主流は「緑の烏龍茶」、「清香(チンシャン)」などと呼ばれる爽やかな風味と香気、エメラルドや翡翠(ひすい)を思わせる青々とした茶葉の仕上げが特徴です。
約200年前に茶樹と烏龍茶の製法を台湾に伝えた本家である中国・福建省安渓などの産地にも、台湾独特の製法が逆に伝わって、大変な人気を博しています。
台湾烏龍茶の頂点 高山の茶葉を求めて
甘露のような甘み、可憐な花々を想起させる繊細な香り、いつまでも続くふくよかな余韻が爽やかな清風のように一体となった、誰もが夢中になる味わい。
専門家でも完全に把握しきれないほど品種や種類の多い台湾の銘茶のなかでも、標高1,000m以上の茶園で育まれた烏龍茶の総称である高山茶(こうざんちゃ)が、この産地ならではの「緑の烏龍茶」の頂点に立つ、最上級品であることは、誰も疑うことがありません。
その反面、現地の「山師と茶師、作家の言葉は信用ができない」ということわざを証明するかのように、台湾国内はもとより、タイやベトナムなどで生産された大量の偽物も横行しています。
今回、おたより取材班は、4月下旬の春摘み茶シーズン真っ盛りの主要産地を、台湾担当のバイヤー、現地スタッフと一緒に訪問。 特にこの希少な高山茶の風味の秘密を探りに出発しました。
名人いわく「考えるな!感じるんだ」
「お茶の風味には、この山のすべてがある。あとは自分自身で感じるしかないよ」
坪林、名間、凍頂山、竹山など各地の産地を訪問しながら山を登り進め、標高1,700mにある南投県の名産地、杉林渓のバンガローまで到着したのは夜半過ぎ。我々を待っていたお茶作り名人・王さんは、高山茶について意気込んで質問を重ねるおたより取材班に、そう言って笑いました。
「さあ、明日は朝も早い。続きは茶園で話そう」
翌朝、夜明け前にバンガローを出発したスタッフ一同。数メートル先も見えない霧の中をかきわけ、狭い林道を進みます。杉林渓でもっとも標高が高い(2,200m)という茶園に到着すると、パッと明るく視野が広がり、故宮博物院の翡翠細工(ひすいざいく)のように、鮮やかに輝くお茶の新芽が、霧の中から浮かび上がりました。あまりに幻想的な様子に、何度も現地を訪問しているバイヤーも、いままでで杉林渓で見た中で最高の光景だと喜びを隠しきれません。
「ここは明日から茶摘みを迎えます。きっと素晴らしいお茶になりますよ」と微笑む王さん。
王さんに許可をもらい、柔らかな新芽を摘み生のまま噛みしめると、雑味がなく実においしい。清らかな青みの中に優しい甘み、かすかな花香の余韻を感じます。「これが高山茶の元なんだ」と思うと、静かな感動が自分の中に沸き上がってきました。
それはまるで、高山茶の名人に「お茶を感じる」極意を伝授されたひとときでした。