「あんなばかげたお茶会に出たの、生まれて初めて!」
ウサギを追って不思議の国に迷い込んだ少女アリスが遭遇する、さまざまな出来事を描いた古典ファンタジー小説「不思議の国のアリス」。なかでも三月ウサギ、帽子屋、ヤマネらによる、おかしなお茶会のシーンは、とても有名です。
さて、彼らはなぜいつまでもお茶会を続けているのでしょうか? それは以前、不思議の国の女王陛下の前で帽子屋が、あまりにもヘタクソな詩を読んだために「あの調子っぱずれは、時間(タイミング)を殺害しておる!」と告げられた出来事がきっかけでした。この女王陛下の言葉を誤解し「帽子屋に殺害される」と思い込んだ「時間」によって、永遠に6時を指したまま時計の針が進まないお茶会に、帽子屋たちは閉じ込められているのです。
世界的に有名なビアトリクス・ポターの絵本シリーズより、お茶会をテーマにした物語(エピソード)をご案内します。
自宅のお茶会に友人を招待したねこのタビタは、3匹の子どもたちによそ行きの服を着せます。タビタがお茶会を準備している間に、子どもたちは外遊びに熱中。よそ行きの服をボロボロにしたあげく、アヒルに持ち去られてしまいます……。意外な結末が楽しめる人気作です。
「いったいなんでわたしは、あのひとをお茶によんでしまったのだろう!」
居心地のよい地面の穴に暮らす保守的な小人(ホビット)、ビルボ・バギンズの家に、魔法使いのガンダルフが訪ねてくるところから物語は始まります。翌日、ビルボの家でのお茶会に現れた13人のドワーフとガンダルフによって、竜に奪われたハープと黄金を取り戻す冒険の一員に選ばれた事を知ったビルボは、迷いながらも旅に出ることを決意します……。
英国人作家、文献学者のJ.R.R.トールキンの代表作「指輪物語」の、前日譚かつ歴史的な価値を持つ傑作。北欧神話や古代英語などをベースに緻密に編み込まれた物語は、今から数万年前かもしれない過去の話という設定。しかし主人公のビルボが、4時のお茶の時間にタバコをくゆらすという、近代以降の習慣を持っているところは、英国人作家によるファンタジーらしい興味深い「小さな謎」です。
「それは、すてきなお茶のもてなしでした。やわらかくゆでたきれいな茶色の卵がめいめいに一つずつ出ましたし、トーストは、小イワシをのせたもの、バターをぬったもの、ミツをつけたものがありました」
第二次世界大戦の空襲を避けて、ロンドンから片田舎にある大きな屋敷に疎開した4人の兄弟。末っ子のルーシィが、大きな古い衣装だんすの中に入ると、そこは雪が降る真夜中の森の中につながっていました。ルーシィは、森で出会った半神半獣のフォーン・タムナスに、お茶の時間に誘われます。その出来事をきっかけに、たんすの中に広がる別世界、ナルニア国にて、兄弟で力を合わせて邪悪な魔女との戦いに挑む冒険が始まります。アイルランド出身のC.S.ルイスによる、英国ファンタジー黄金時代を代表する傑作長編小説です。
「ハリーが行き着いたのはこれまで見たことがない奇妙な教室だった。むしろ、とても教室には見えない。どこかの屋根裏部屋と昔風の紅茶専門店を掛け合わせたようなところだ」
英国人作家 J.K.ローリングによる、現代を代表する長編ファンタジー小説「ハリー・ポッターシリーズ」。シリーズでも人気の高い第三巻「アズカバンの囚人」では、主人公ハリーが学ぶホグワーツ魔法魔術学校での授業の一環として、紅茶占いを学ぶ様子を記しています。
「棚から紅茶のカップを取って、あたくしのところへいらっしゃい。紅茶を注いでさしあげましょう。それからお座りになって、お飲みなさい。最後に滓(おり)が残るところまでお飲みなさい。左手でカップを持ち、滓をカップの内側に沿って三度回しましょう。それからカップを受け皿の上に伏せてください。最後の一滴が切れるのを待ってご自分のカップを相手に渡し、読んでもらいます」
紅茶占いは、主に19世紀から20世紀初頭にかけて欧米を中心に流行した占いのひとつ。茶こしを使わずにいれたお茶を使い、飲み終わった後にティーカップの底に残った茶葉の形から、象徴やラッキーアイテムを見つけ読み解くことで、その人の運勢を占う遊びです。不安定な図形から人の心の中を探るロールシャッハ・テストの、いわば簡易版というところでしょうか?
さて物語は、ハリーの持つティーカップの茶葉が、死神犬(グリム)の形となっており、占いを指導する先生からハリーは近く死亡することを予告されます。その後、魔法界の刑務所アズカバンから脱獄してきた、ハリーの両親を殺害した犯人とされるシリウス・ブラックが、黒い犬の気配とともにハリーに接近。命を賭けた壮絶な戦いと謎解きが繰り広げられます……。
動物語を話す英国の獣医師ドリトルが主役のヒュー・ロフティングによる「ドリトル先生物語」は、一作目の刊行から100年近くたった現在も、手に汗握る冒険と独自のユーモアから、大変に人気のあるシリーズです。
19世紀中頃が舞台となる「ドリトル先生の郵便局」では、西アフリカ湾岸を航海中、英国海軍による奴隷船の拿捕(だほ)をドリトル先生が協力します。ツバメの親分である韋駄天(いだてん)のスキマーの力もあって、逃走する奴隷船のマストを爆破し、奴隷商人を降伏させた手柄を認められた先生は、その功績を讃えて「騎士に列する」か「名誉のメダルを賜るつもり」との艦長の言葉に「それよりもお茶を五百グラムいただきたい」と申し出ます。事件解決後、ドリトル先生は、何ヵ月ぶりのお茶を自らいれるのです。
バンクス家の4人の子供たちを住み込みでお世話する保母(ナニー)として、魔法を使うことができるメアリー・ポピンズが、風とともに現れたことから始まるファンタジー。マッチ売りと路上に描いた絵の中に飛び込み、午後のお茶を楽しむ場面も魅力的ですが、それ以上に不思議なのが「空中のお茶会」。メアリーのおじアルバート・ウィッグさんを子供たちと訪問すると「四人分の茶わんとおさら、バタをつけたパン、やわらかそうな菓子パン、ヤシの実いりのお菓子などの山盛りのおさら」などがあるものの、肝心のウィッグさんが見あたりません。実は、その日はおじさんの誕生日が金曜日にあたる特別な日。体質の問題でその日は笑うと「笑いガスがからだじゅういっぱいになる」ため、天井近くに浮いていたのです。また効果はあたりにいる人にも感染するため、その場にいる者は空中に浮かびながらのお茶会になりました。